現代社会のリテラシー:依存症学
教本第三号

第三章:救済の逆説
―金銭的援助が招く共倒れの構造―

【本節の学習目標】
1. 依存症者への「肩代わり」がもたらす長期的リスクを理解する。
2. 「底つき」の概念と回復におけるその重要性を学ぶ。
3. 家族が取るべき「正しい手放し」の具体的手順を習得する。

前章で述べた通り、依存症者の脳は「一発逆転」という幻想に支配されています。この病理を前にして、我々が日常で行う「困っている人を助ける」という善意は、時に破壊的な結末をもたらします。

第一節:肩代わりによる「地獄の延長」

世間の目、借金の督促、大切な人の社会的信用の失墜。家族がそれらを恐れて肩代わりを行うことは、本質的に「救済」ではありません。依存症者の脳は、浮いたお金を反省の材料にするのではなく、「次のギャンブルのための軍資金」へと無意識にすり替えます。

⚠️ 破滅へのサイクル
肩代わり(偽の安心) ➔ 本人の危機感消失 ➔ 賭け金の増大 ➔ 家族の資産枯渇 ➔ 共倒れ・絶縁
第二節:底つき(Bottoming Out)の概念
重要用語

底つき(Bottoming Out):
自らの行動によって招いた最悪の結果を、誰の助けも借りず、自分自身で引き受ける絶望的な状況。回復への唯一のスタート地点とされる。

「底つき」を経験させないことは、回復のチャンスを奪い続けているのと同じです。本人が「ギャンブルを続けることは不可能だ」と魂から認識するためには、現実の痛みから彼らを守ってはいけないのです。

第三節:家族の防衛と専門機関への接続

家族にできる最善策は、冷酷になることではなく、「金銭적・物理的な境界線」を明確に引くことです。一人暮らしを促し、自立させることは、本人の人生を本人の責任に返す行為です。

推奨される行動指針

1. 金銭的援助の全面停止: どんな理由があろうとも、財布を閉じる。
2. 家族会への参加: 「ギャンブル依存症の家族会」に繋がり、同じ境遇の先輩たちから正しい対応(手放し方)を学ぶ。
3. 情報の提供のみ行う: 自助グループや専門病院の連絡先を渡し、本人が助けを求めた時のみ「治療のサポート」を検討する。

【第三章 結び】
依存症者を手放すことは、愛を捨てることではなく、愛の形を「共依存」から「回復の支援」へと変えることです。家族が先に健康になり、正しい距離感を保つことこそが、地獄の連鎖を断ち切る唯一の道となります。


NEXT STEP:第四章
「自分への信頼の再構築」1日1得と社会的責任の全うへ