「嘘つき」なのは性格のせいじゃない。

「今日は友達と釣りに行った」 「急遽、学校で集金があったんだ」 「財布を落としてしまって、お金がない」
ギャンブル依存症の渦中にいるとき、僕たちの口からは、まるで呼吸をするかのように嘘が溢れ出します。それも、あとで考えればすぐにバレるような、情けないほど小さな嘘から、人生を揺るがすような大きな嘘まで。
かつての僕もそうでした。15年間、ほぼ毎日パチンコ屋に通い詰めていた僕は、嘘をつくことの天才であり、同時にその嘘に自分自身が飲み込まれていました。
周囲からは「平気で嘘をつく、最低な人間だ」と思われていたでしょう。しかし、当事者の視点から言わせてほしいのです。あの時、僕たちは「嘘をつきたくてついていた」わけではありません。脳が、自分を守るために、勝手に嘘を生成していたのです。
今回は、ギャンブル依存症者がなぜ「嘘つき」になってしまうのか。その裏側にある「脳のバグ」と、僕が奨学金を使い込み、すべてが崩壊したあの日までのお話をします。
1. 「後ろめたさ」という名の猛毒が、嘘を育てる

パチンコを辞められない僕の心には、常に「後ろめたさ」という重い澱(おり)が溜まっていました。
特に両親に対してです。僕の母は、パチンコを到底理解してくれるような人ではありませんでした。そして父は、自分もギャンブラーでありながら、一生懸命働いて僕の学費を払ってくれていました。
「学費を出してもらっているのに、僕はパチンコ屋にいる」 「家族を裏切っている」
この猛烈な申し訳なさが、皮肉にも嘘の燃料になります。人間にとって「自分が最低な人間である」と認めることは、死ぬほど苦しいことです。だから脳は、その苦痛から自分を守るために、「嘘」という防衛膜を張ります。
「1万負けた」なんて口が裂けても言えません。だから「今日は友達とボーリングに行った」という、ありもしない偽りの思い出を語るのです。この瞬間、脳内では**「真実を伝えて非難される恐怖」から逃れるための緊急回避スイッチ**が入っています。
2. 嘘の増殖:脳が「打つ環境」を死守しようとするバグ

依存症が進むと、脳の最優先事項は「次のドーパミンを得ること(パチンコを打つこと)」に固定されます。すると、脳はパチンコを邪魔するあらゆる障害を排除しようとします。
第1段階:アリバイ作りの嘘
「ライブに行く」「バイトがある」。これらは、パチンコを打つための「時間」を確保するための嘘です。家族に怪しまれず、堂々とホールのハンドルを握るための環境作りです。
第2段階:金策のための嘘
ついに財布が空になったとき、脳はパニックを起こします。このままではドーパミンが切れてしまう。そこで「嘘」は凶暴化します。「時間がなくて下ろせない」「学校で急な集金がある」。 この時、脳は「嘘をつく罪悪感」よりも「打てなくなる絶望」を回避することを優先します。これを脳科学では**「報酬予測誤差」のバグ**と呼びます。目先の報酬(パチンコ)を得るために、長期的な信用という報酬をゴミのように捨ててしまうのです。
3. 終着駅:奨学金の使い込みと、親への発覚

嘘が雪だるま式に膨らみ、ついに僕は一線を越えました。 学費として振り込まれた「奨学金」に手を出してしまったのです。
これを使い込んだらどうなるか。大学に行けなくなる、親を絶望させる、人生が終わる。そんなことは、分かっています。誰よりも自分が一番よく分かっています。でも、ATMの前に立つと、脳は囁くのです。 「今回だけ勝って、返せばいい。そうすれば、誰にもバレずに済む」
この**「歪んだ合理化」**も、脳のバグの一つです。 結局、すべてを使い果たし、僕は親に隠し通せなくなりました。奨学金の未納通知、あるいは親からの問い詰め。追い込まれたその瞬間、僕の中にあった嘘のダムが決壊しました。
言い訳の余地なんて、どこにもありませんでした。 なぜもっと早く言えなかったのか? それは、**「追い込まれるまで、脳が嘘をつくことを辞めさせてくれなかったから」**です。嘘をついている間、僕たちは常に「バレる恐怖」という地獄の中にいます。でも、脳はそれ以上に「パチンコという避難所を失う恐怖」を恐れている。だから、破滅の直前まで嘘をつき続けてしまうのです。
「僕が奨学金を使い込んだ時のことを書いた記事がこちら」
4. 回復のカギは「自分への信頼」を取り戻すこと

嘘を辞めるために必要なのは、根性ではありません。**「自分をもう一度、信用できるようになること」**です。
依存症の脳は、ギャンブルで手に入れた「一瞬で大金を稼ぐ」という強烈な成功体験を覚えています。負けて絶望していても、脳の片隅でその「偽物の成功」を思い出し、またハンドルを握らせようとします。
このバグを上書きするには、日常生活の中で**「小さな成功体験(プチ成功)」**をコツコツと積み重ねていくしかありません。
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決めた時間に起きる
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散歩を15分だけする
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嘘をつかずに一日を終える
パチンコの刺激に比べれば、これらは退屈で、ちっぽけに見えるかもしれません。でも、この「自分との小さな約束」を守り続けることが、ギャンブルにハックされた脳を正常に戻す唯一の筋トレになります。
5. 「偽物の成功」から「本物の充実」へ
僕も今、パチンコ以外の趣味や目標を見つけることで、少しずつ「信用できる自分」を買い戻しています。最初は「暇」を潰すのが苦痛でしたが、自分で決めた「プチ目標」をクリアしていく感覚は、パチンコで勝った時の虚しい高揚感とは違い、心にじんわりと残る「本物の自信」になります。
もし、今「何をすればいいか分からない」という方は、僕が実際に見つけた趣味や、そこで立てている小さな目標を参考にしてみてください。
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結びに:正直さは、脳の回復とともに戻ってくる
15年の依存生活を辞めて1ヶ月。今の僕は、親に対しても、自分に対しても、嘘をつく必要がありません。 まっすぐ家に帰り、あったことをそのまま話せる。この「呼吸のしやすさ」は、何物にも代えがたいものです。
嘘という鎖から解き放たれるには、まず「自分の脳が今、バグっている」と認めること。 完璧じゃなくていい。少しずつ、自分を裏切らない時間を増やしていきましょう。
泥臭く、一歩ずつ。僕もまだ、その途中にいます。
